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東京。ラッシュを少し過ぎた朝の電車。
目の前に外国人らしき若い女性が座って本を読んでいた。 何気なしに彼女の顔を見て、フト、この人はアルジェリア人でなかろうかと思った。肌が白く、髪や目は黒い。素直に考えれば、白人とアジア人のハーフなのだろうが、憂いを秘めた小さな目が、北アフリカを思い出させた。 「彼女の読んでいるのがフランス語なら、アルジェリア人ということにしましょう。」と心の中で勝手に決定し、そっと目を落とした。 なんだ英語じゃん、と思った瞬間、本のタイトルが目に入る。 "In Cold Blood." カポーティの「冷血」。 Cold bloodどころか、boiling hot blood, 一気に体が熱くなって、心臓ドキドキ。この本、かなり思い入れの強い作品だったのだ。 2000年、ポルトガルを2週間ほど旅した。持っていった本(中沢新一&細野晴臣「観光」)は飛行機の中で読んでしまったので、リスボンにて本屋に入った。中身も知らず、なんとなく手に取ったのが、「冷血」だった。読み始めたら、ポルトガルなんてそっちのけ、ホテルに籠って一気に読んだ。 「ティファニーで朝食を」といった小説で知られるカポーティであるが、「冷血」は、'59年にカンザスで実際に起きた一家殺害事件を追った作品である。 月並みな表現だけど、まさに圧巻、"tour de force"。ザラザラしたその場の空気の感触が伝わってくる。読んでいて、犯人の息づかいが首の後ろに感じられ、息が苦しくなり、パラノイアに陥ったことを覚えている。 で、目の前に座っている人が、これを読んでいたのである。「今一体どの辺りを読んでるんだろう。ディックとペリーは捕まっただろうか? 何でこんな涼しい顔して読んでいられるんだ!」気になって、緊張して、いてもたってもいられない。 6-7駅経って、やっと勇気を振り起こした。 「読書の邪魔して申し訳ないけど、その本、私も好きな作品なんで、びっくりしちゃって...」 彼女もびっくり、ぽかんとこちらを見て、一言。 「なんで英語が上手なの?」(予期せぬことに驚かれてこちらも再びびっくり。) 彼女はこの本にそれほど強い衝撃を受けているようではなかったが、つかの間、お互い、最近読んで面白かった本の話をして、次の駅で彼女は降りて行った。 コーフン状態から醒めると、「ダヴィンチ・コード」ではないにしろ、今この本を読む人を見かけるというのは、あながちランダムなことではないのだと思い当たった。昨年、この作品を書いていた当時のカポーティーを描いた映画 "Capote" がリリースされたのだ。カポーティーを演じたPhilip Seymour Hoffmanは絶賛を受け、アカデミー賞・主演男優賞を獲得。日本ではこの秋公開。 ちなみに、本の方は、Richard Brooks によって、'67年に映画化されている。脚本制作にはカポーティも参加し、シャープな白黒映像とフリージャズのスパイスが効いた素晴らしい作品に仕上がっている。("In Cold Blood")
by rflux
| 2006-07-07 23:58
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