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Katherine Boo 著、"Behind the Beautiful Forevers" 読了。
アメリカの白人女性ジャーナリストが、ムンバイ国際空港の脇に広がるスラム街、Annawadiに3-4年に渡って密着取材し、そこに暮らす人々の日常、言葉、考え、思いを綴ったノンフィクション。 ムスリムとヒンズーの2家族にスポットをあて、ある事件を中心に話が構築されて、小説のように読ませる。それぞれのキャラクターを生き生きと描く文章と構成力の素晴らしさに、ぐっと引き込まれた。 ***** 初めてのインド旅行、デリーの駅で一等車に乗り込み、駅から出て行く窓の外に広がっていたのは、延々と続くスラム街だった。のろのろ進む電車からは、そこにうごめく人々の顔までよく見える。 その顔を見て、正直、「ここに生まれ、育ち、暮らす彼らに、人間としての理性が残るのだろうか?」と思い、その光景にも、そう感じた自分にもショックを覚えた。彼らがそこに生まれたことと、自分が自分の国と環境に生まれたことについて、どう考えていいのかも分からない。 特にムンバイは、さすが世界一のスラム都市の悪名名高いだけあって、街中にあふれるホームレスの数が半端じゃない。大きな道路の脇に、赤ん坊を抱え、2−3人の小さな子供を従え、炎天下の中、ごろりと寝転ぶ若い母親たち。 「彼らは何を考えて生活しているのだろう。」 ***** なので、この本について知ったときは、まさにコレ、と思ったし、裏切られなかった。もちろん、これはごく一部のストーリーだし、本を読むだけなわけだけど、彼らと話す機会があれば聞いてみたかったことのいくつかを、じっくり読むことが出来た。 人間関係と衛生上、両方における、極粗悪な環境がしっかり説明されていて、読めば読むほど、絶望的。 特に、行政システムの腐敗がすざましい。自国や海外から、援助のお金が来ているのだが、間に何層もの人間が割り込んで自分の懐に入れてしまうので、意味をなさない。視察に来たときだけ、適当に人を集め、脅し、いい顔して写真に収める。学校も病院も孤児院も、まったく成り立っていない。 子供にしっかり教育を受けてもらうためには、親が安定した収入を得ることが必須だけど、「定職」はスラム街の人間にはまずまわってこない。 彼らに回ってくるせいぜい「最高」の例は、駅の便所掃除の定職を持っているAが、その所得のほんの一部の金額で、スラムの人間Bを雇い、この仕事を請負させる。AはBに便所掃除をさせて、その間、他の仕事をして、微々たるダブル所得を得る。さらに、この仲介をする人間が、間でさらにマージンをとる。こんな請負の仕事ですら、スラムの人間には、またとない"定職"なのだ。 定職のない多くの人 -- 多くは子供たち-- は、ゴミ回収をする。拾ったゴミを、金属、プラスチック、ゴム、など細かく仕分けして、リサイクル業者に買い取ってもらう。ここにも壮絶な縄張り争いがある。切り傷が絶えず、知らずに危険な薬物に触れたり、不衛生な環境で作業するため、傷口からばい菌が入り、命取りとなる。 車に轢かれても、誰も助けにこない。殺人や自殺があとを立たない。そんな中でも、奇跡的に大学まで進んだ女子学生、他人を蹴落としながら政治の道へとがむしゃらに食いつく母親、など、必死に皆サバイバルしている。でも、やはり、抜けるに抜け出せない貧困のサイクルがあり、全然「スラムドッグミリオネアー」じゃない。 本のタイトルについて:国際都市としてのイメージアップに躍起なムンバイ市が、街への入り口である空港付近整備のキャンペーンで、空港へつながる高速道路に看板をつなげて立てて、後ろに広がるスラムを見えなくした。看板は、高級なタイルの宣伝で、傷もつかずにずっとピカピカ、大きく"Beautiful Forever"と書かれてある。 本のサイトに、ビデオクリップや写真があります。
by rflux
| 2012-06-24 21:46
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